安全な夏を過ごすために:熱中症予防のポイント

まだまだ暑い日が続いています。
医療機関へ熱中症で搬送される患者さんも引き続き多く見られています。
今回は、環境省の予防情報サイトを参考に熱中症の予防についてまとめてみましたので是非ご一読ください。

日常生活での注意事項
  • 暑さを避ける工夫自宅の室温について

環境省は、冷房時の室温28°Cで快適に過ごせる軽装への取組を促すライフスタイル「クールビズ」を推 進しています。
まず、「28°C」という数値はあくまで目安です。「クールビズ」で呼びかけている「室温28°C」は冷房の設定温度のことではありませ冷房の設定温度を28°Cにしても、室内が必ずしも28°Cになるとは限りません。そのような場合は設定温度を下げることも考慮に入れる必要があります。

  • こまめな水分補給

日常の飲料摂取量は1日約1.2リットルが目安です。発汗量に応じた水分補給が重要で、大量発汗時には塩分濃度0.1~0.2%のスポーツ飲料を推奨します。ただし、糖分の過剰摂取に注意が必要です。

運動や労働後は翌日までに水分を補給し、入浴時や睡眠時も水分摂取が大切です。大量発汗時は体重減少量の7~8割を補給することが目安です。汗の量は運動の強度や環境によって異なるため、体重を計測し、発汗量を確認しておくと良いでしょう。

  • 急に暑くなる日や継続する暑さに注意

熱中症は特に7月下旬から8月上旬に多く見られますが、通常暑さに慣れるには3〜4日かかります

具体的には運動や作業を始めてから3 ~4日経つと、汗がより早くから出るようになって、体温上昇を防ぐのが上 手になってきます。さらに、3 ~ 4週間経つと、汗に無駄な塩分をださないようになり、熱けいれんや塩分欠乏による その他の症状が生じるのを防ぎます。

このような順応ができていないうちは熱中症リスクが高まります。急に暑くなった日や久しぶりに暑い所で活動する際は注意が必要です。

  • 暑さと睡眠の関係

暑さは私たちの睡眠に大きな影響を与えます。快眠のためには深部体温を下げる必要がありますが、日本の高温多湿な夏では、これが難しくなります。汗をかいても、皮膚温度を上げても、うまく放熱できないため、眠りにつきにくくなるのです。人間の体温調節機能は、起きている時の方が睡眠中よりも効果的です。そのため、暑い夜には体温調節のために目が覚めてしまうことがあります。快適な睡眠のための室温は28°C以下とされており、冷房の使用が推奨されます。特に高齢者や幼児は暑さの影響を受けやすいので、注意が必要です。睡眠時間が短くなると、体温調節機能に影響が出ます。睡眠時間が短い場合(4時間以下)や通常より1.5時間少ない睡眠でも、翌日の運動時に体温が上がりやすく、汗も多くなります。このため、夏の睡眠不足は熱中症のリスクを高める可能性があります。

高齢者と子どもの注意事項
  • 高齢者の特徴

1. 行動性体温調節の鈍化

人が暑さにさらされると、皮膚の温度センサーが感知した情報が脳の体温調節中枢に伝わります。「暑い」と判断されると、皮膚血流量や発汗量を増やす自律性体温調節と、冷房使用などの行動性体温調節が作動します。

高齢者(70歳以上)の夏季の居室は、若年者より室温が2°C高く、湿度も5%高い環境で生活しています。これは冷房使用時間が短く、設定温度が高いためです。その理由として、体の冷えを嫌うことや節電意識がありますが、皮膚の温度センサーの感度低下も一因です。この行動性と自律性の体温調節の鈍化により、体に熱がたまり、熱中症のリスクが高まります。

2. 熱放散能力の鈍化

体温調節中枢が暑さを感知すると、自律性体温調節として皮膚血流量や発汗量を増加させ、熱を放散します。

しかし、老化が進むと、これらの反応が遅れ、体温の上昇に伴う血流量や発汗量の増加も小さくなります。そのため、高齢者は若年者に比べて熱放散能力が低く、体内に熱がたまりやすく、深部体温が上昇しやすくなります。

発汗能力は下肢から体幹、上肢、そして頭部へと進行します。汗腺やその周辺の老化が進むと、汗腺の老化が遅れる部位(前額)での発汗量が増加することがあります。これは脳の温度上昇を抑えるための適応現象と考えられています。

また、暑さで皮膚への血流量が増えると、心臓に戻る血液量が減少し、心拍数が増加します。このため、循環器系に基礎疾患がある、または機能が低下している高齢者は熱中症のリスクが高まります。

3. 体液量の低下

高齢者は若年者より体液量および血液量が少なく、これも熱放散反応の低下につながります。また、高齢者は同程度に発汗した場合でも脱水状態に陥りやすく、回復も遅れます。これは、のどの渇きを感じにくいことや腎機能の低下が原因です。

一般に脱水が進むと喉の渇きを感じ、自然に水分を摂取しますが、高齢者は脳での察知能力低下により、脱水が進んでも渇きを感じにくくなっています。このため、意識的な水分補給が重要です。

  • 高齢者の熱中症対策の注意点

夏には高齢者は喉の渇きを感じなくても、こまめな水分補給が重要です。水分の多い夏野菜や果物、みそ汁やゼリーなども活用しましょう。

部屋には温湿度計を置き、室温を28°C前後に保つために冷房を積極的に使用します。エアコンの風が直接当たらないように調整し、広い範囲で室内を涼しくする工夫も必要です。

高齢者が日常的に運動を行うと、体温調節能力が若年者と同等になることが示されています。運動後30分以内に糖質とタンパク質を含む食品(例:牛乳1〜2杯)を補給することで、血液量が増加し、熱放散能力が改善されます。1日1回汗をかく運動を心がけましょう。 

  • 子供の特徴
  1. 熱放散の未熟さ


 思春期前の子どもは、汗腺などの体温調節能力が未発達なため、高齢者と同様に熱中症のリスクが高いです。

温熱ストレスが増大すると、子どもは皮膚血流量を増やして未発達な汗腺能力を補います。子どもは大人よりも「体表面積/体重」比が大きく、熱しやすく冷めやすい体格特性を持っています。

気温が皮膚温より低い場合、皮膚血流量の増加と冷めやすい体格特性により、深部体温を若年成人と同様に調節できます。しかし、汗が唯一の熱放散手段となる環境温が皮膚温より高い条件や夏季の炎天下などの環境では、未発達な発汗能力が影響し、子どもの深部体温は大人より大きく上昇し、熱中症のリスクが急増します。

高温環境下では、子どもに熱失神がよく見られます。これは過度な皮膚血管の拡張と未発達な血圧調節によるものです。

2. 肥満の影響

学校管理下で発生した熱中症死亡事故では、肥満が大きな要因であることが指摘されています。

このことは、夏季の 子どものスポーツ活動時において、肥満度が高い者ほど深部体温が高くなることからも裏づけられています。

そのため、 肥満傾向の子どもほど、暑熱下長時間運動に対して注意が必要です。

  • 子供の熱中症対策のポイント

 高温の日に散歩する際、身長の低い幼児は大人より危険です。晴天時は地面に近いほど気温が高くなり、例えば東京都心で気温が32.3°Cの時、幼児の身長50cmでは35°Cを超え、さらに5cmの高さでは36°C以上になります。大人が暑いと感じる時、幼児はさらに高温の環境にいることになります。

子どもを観察したとき、顔が赤く、ひどく汗をかいている場合には、深部体温がかなり上昇していると推察できるので、涼しい環境下で十分な休息を与えましょう。

参考文献

  • 熱中症環境保健マニュアル 2022



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