最終更新:2025年10月
高血圧とは?
高血圧とは、心臓が送り出す血液が血管にかける圧力です。通常、安静時の血圧は収縮期(上の血圧)120mmHg前後、拡張期(下の血圧)80mmHg前後が理想とされます。高血圧はこの血圧が慢性的に正常より高い状態を指し、日本では一般に診察室血圧で140/90mmHg以上が高血圧と診断されます(家庭で測る場合は135/85mmHg以上が基準)。高血圧そのものでは自覚症状がないことも多いですが、長期間放置すると血管に負担がかかり続け、脳卒中(脳梗塞・脳出血)、心筋梗塞、心不全、腎臓病、大動脈瘤、認知症など様々な重大な病気の原因となります。高血圧は日本でも非常に患者数の多い生活習慣病ですが、裏を返せばきちんと管理すれば防げる病気でもあります。
高血圧の新しい考え方
2025年の最新ガイドライン(JSH2025)では、年齢や合併症に関わらずすべての高血圧患者さんで降圧目標が統一されました。基本となる目標血圧は診察室で130/80mmHg未満、家庭では125/75mmHg未満です。これは前回まであった「まずは140/90を目指す」という段階目標がなくなり、いきなり130/80未満を目指す形に変わったことを意味します。近年の研究で、従来「正常高値」とされていた範囲(130~139/80~89mmHg)でも脳・心臓のリスクが高いことが分かってきたためです。
ただし、目標はあくまで「安全に達成できる範囲で低いほど望ましい」という考え方です。急に下げすぎてめまいや立ちくらみなどの副作用が出ては本末転倒です。特に高齢の方では、ふらつきや腎機能悪化のリスクが高い場合、無理せず140/90mmHg未満など個別に調整します。また妊娠中や終末期など特殊な状況では別基準となるため、主治医と相談して目標を決めます。
ポイント:家庭血圧の記録が治療の中心になります。特に朝起きてすぐの「朝の血圧」は一日の中でも高くなりがちですが、心臓・脳への負担を減らすため起床後の血圧もできれば130/80mmHg未満に抑えることが推奨されています。まずは朝夕の血圧を毎日測り、平均値で目標を達成できているか確認しましょう。
家での測り方
- 朝:起きてすぐ、トイレ後、朝食や薬の前。椅子に座って1~2分落ち着いてから測る。
- 夜:寝る前に同じように。
- 1回につき2回測って平均、上腕式の血圧計を使いましょう。
- まずは5~7日の平均を持ってきてください。診察で一緒に見ます。
生活習慣でできること(非薬物療法)
高血圧の治療の基本はまず生活習慣の改善です。日々の心がけで血圧が大きく下がるケースも多くあります。今日からできる代表的なポイントを挙げます。
- 減塩:塩分の摂りすぎは血圧を上げる最大の原因です。日本人の食塩摂取量は多めなので、目標は1日食塩6g未満に抑えること。具体的には「汁物のスープは残す」「加工食品(ハム・漬物・インスタント食品など)を減らす」「麺類のスープや醤油は控えめに」といった工夫が有効です。減塩に慣れると味覚も変わり、薄味でも満足できるようになります。
- カリウムを適度に摂る:カリウムには塩分(ナトリウム)を体外に排出させる作用があり、血圧を下げる助けになります。野菜・果物・海藻・豆類・乳製品などに多く含まれるので、毎日の食事にプラスしましょう。ただし腎臓が悪い方はカリウム過剰に注意が必要ですので医師に相談してください。最近では尿中のナトリウム・カリウム比(Na/K比)を家庭でチェックできるキットもあり、減塩とカリウム摂取のバランス管理に役立ちます。
- 体重管理:太り過ぎは高血圧の大きなリスクです。BMI25未満が目安ですが、急に難しければまず今より2~3kg減を目標にしましょう。体重が1kg落ちるごとに血圧も少しずつ下がりやすくなります。
- 適度な運動:運動習慣は血圧を改善し、心肺機能も高めます。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を1日30分程度・週5日(合計150分程度)行うのが理想です。忙しい場合は細切れの運動でも構いません。同時に筋力トレーニング(自重スクワットや軽い筋トレ)も週2〜3回取り入れるとさらに効果的とされています。無理のない範囲で、まずはできることから始めましょう。
- 飲酒・喫煙:お酒は適量までに留めましょう。目安はビール中瓶1本・日本酒1合程度までで、週に2日は休肝日をつくることが推奨されています。大量の飲酒は高血圧だけでなく肝臓にも悪影響です。喫煙は血圧を直接上げるだけでなく、血管を傷つけ動脈硬化を進めます。禁煙することで心血管疾患のリスクが大きく低下します。
- その他の生活習慣:ストレスや睡眠不足も血圧には良くありません。適度に休息をとり、睡眠は毎日6~8時間程度確保しましょう。便秘でいきむと血圧が急上昇することがあるため、食物繊維や水分をとって便通を整えることも大切です。また寒い冬場に急に熱いお風呂に入ると血圧変動が大きくなるため、入浴時は室温を暖かくしたり、急なお湯かけを避けるなど血圧の急上昇を防ぐ工夫もしてみましょう。
薬物療法について
生活習慣の修正だけでは血圧が十分下がらなかったり、最初から血圧が高め(Ⅱ度以上)だったり、脳・心臓・腎臓などにリスク因子がある場合は、薬による治療を併用します。高血圧の薬物療法は「怖い」「一生やめられないのでは」と心配される方もいますが、脳卒中や心臓発作を予防するための大切な手段です。現在では効果が高く安全性の高い薬が多数あり、必要最小限の組み合わせで目標達成を目指します。
- カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬):血管を拡げて血圧を下げます。日本で特に多く使われるタイプで、「~ジピン」という薬(アムロジピン等)が代表です。効果が高く幅広い患者さんに使われます。
- RAS阻害薬(ARB/ACE阻害薬):血圧上昇ホルモンの働きを抑える薬です。ARB(〜サルタン)やACE阻害薬(エナラプリルなど)は糖尿病や腎臓病をお持ちの方にもよく使われ、腎臓の保護効果も期待できます。
- 利尿剤:尿を増やして余分な塩分と水分を排出し、血圧を下げます。サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド等)は少量でも効果があり、高齢の方や心不全を合併する方によく使われます。
- βブロッカー(β遮断薬):心臓の拍動を穏やかにし、血圧を下げます。以前は糖尿病への影響などから高血圧初期治療では敬遠されがちでしたが、現在は第一選択薬の一つとして位置づけられています。心疾患(狭心症や不整脈、心筋梗塞後など)を持つ方には特に有用な薬です。
- その他:上記のほか、最近ではARNI(エンレスト®)やMRA(アルダクトン®等)といった薬が難治性高血圧や心不全合併例で使われることもあります。
▼ 薬物療法の進め方
- 開始時期:低~中リスクの高血圧ではまず生活習慣改善を行い、1か月以内に再評価して改善がなければ薬物治療を開始します。一方、脳卒中の既往や糖尿病などの高リスク例では初診から速やかに薬物療法を併用開始し、早めに降圧を図ります。いずれにせよ我慢強く何ヶ月も放置せず、必要と判断された場合は早めにお薬を使う方針です。
- 薬の選択と併用:上記5種類の第一選択薬の中から、患者さん一人ひとりの状態に合わせて最適な薬を選びます(例えば心臓に負担がかかっている方にはβブロッカーを優先、むくみがある方には利尿剤を追加…など)。最初は通常1種類から開始し、十分な効果が得られなければ2剤併用、3剤併用へと段階的に組み合わせていきます。複数の薬を少量ずつ使うことで副作用を抑えながら確実に降圧することが可能です。
- 副作用への配慮:降圧薬にも稀に副作用があります。ACE阻害薬で空咳、カルシウム拮抗薬で足のむくみ、利尿薬で頻尿や低カリウム、βブロッカーで倦怠感などが生じることがあります。いずれも調整で対処可能ですので、気になる症状が出たら遠慮なく主治医にお知らせください。当院では副作用にも注意しながら、その方に合ったお薬の種類・量を一緒に見つけていきますのでご安心ください。
好生医院の診療の流れ
- 詳しい初期評価:来院時の血圧測定に加え、必要に応じて家庭血圧の記録を確認します。さらに血液・尿検査(腎機能・血糖・コレステロールなど)や心電図で高血圧による臓器への影響や他のリスクを評価します。動脈硬化の程度を調べるCAVI・ABI検査(血管の硬さや詰まり具合を測定する検査)や、心臓エコー・頸動脈エコーによる臓器のチェックも必要に応じて実施し、全身のリスクを見える化します。
- 目標値の共有と治療計画:最新ガイドラインに基づき、まずは130/80mmHg未満という目標を念頭に置きます。ただし年齢や体調も考慮し、「安全に達成できる範囲」で個別に目標を設定します。患者さんと相談しながら、生活面の目標(減塩や体重減少の目標値など)と、必要なら薬物療法の方針をわかりやすく説明し、一緒にゴールを共有します。
- 生活習慣のサポート:無理のない範囲で取り組める生活改善プランを提案します。例えば「まずは夕食時の汁物は半分残す」「エレベーターではなく階段を使う回数を増やす」など、患者さんの生活スタイルに合わせた具体的な目標を1~2点決めます。栃木市という地域性も踏まえ、地元の食習慣に合わせた減塩方法のアドバイスや、当院管理栄養士による食事指導も可能です。血圧手帳やスマートフォンアプリで家庭血圧を記録し、見える化してモチベーション維持につなげます。
- 必要最小限の薬物療法:生活改善のみで目標達成が難しい場合は、早めにお薬を開始します。患者さんの合併症や体質に合わせた薬剤選択を行い、まず1種類から開始します。効果を見ながら段階的に薬を追加・調整し、できるだけ少ない種類・最低限の用量で目標を達成できるよう工夫します。当院では複数の専門医の視点を活かし、心臓や脳に持病のある方でも安心して使える治療計画を立てています。
- 定期フォローと微調整:治療開始後も定期的に経過をフォローします。2~4週ごとに来院いただき血圧や症状を確認、目標とのギャップに応じて薬の増減や生活アドバイスの微調整を行います。寒暖差が大きい時期や体重変化にも応じて柔軟に対応します。また定期フォロー中に、脳卒中の前ぶれ症状(もの忘れの悪化や軽い麻痺)や心臓の症状(胸の痛み、息切れなど)がないかもしっかりチェックします。必要があれば各専門医と連携し、高血圧の管理から合併症予防まで一貫してサポートいたします。
当院は生活習慣病治療にも力を入れており、地域のかかりつけ医として患者さんの健康寿命を延ばすお手伝いをしています。「高血圧かな?」と不安に思ったら、お気軽にご相談ください。 ご自宅での血圧管理から専門的な検査・治療まで、安心して受診いただけるようサポートいたします。
よくある質問
Q. 高齢でも130/80未満を目指しますか?
A. 基本的にはその値未満を目指すのが望ましいです。130/80を少し超える範囲(いわゆる高値血圧)のままだと、将来的な脳卒中や心臓病のリスクが高いことが分かっています。ただし、無理に下げすぎてめまいやふらつきが出るようなら本末転倒です。治療では安全に日常生活を送れる範囲で目標を調整しますので、体調優先で主治医と相談しながら進めましょう。
Q. 家庭と診察室で数値が違います。どちらを信じれば?
A. 家庭と病院で血圧が異なるのはよくあることです。病院だと緊張して高く出る(白衣高血圧)、逆に病院では正常でも自宅で高い(仮面高血圧)という場合があります。そのため家庭での朝晩の平均値が重要です。毎日同じ条件で測った平均が診察室血圧より高めなら実際に高血圧の可能性がありますし、逆に診察室で高くても家庭で正常なら過剰な治療は避けます。どちらか一方の測定だけで判断せず、両方のデータを合わせて評価することが大事です。
Q. 薬で血圧が安定したら、薬をやめることはできますか?
A. 自己判断で中断するのは危険です。血圧が安定しているのはお薬の効果によるもので、やめてしまうと多くの場合また上昇します。とはいえ将来ずっと同じ量が必要というわけでもありません。生活習慣の改善によって体重が減ったり減塩が習慣化したりすれば、血圧が下がって薬を減量できるケースもあります。医師と相談しながら、定期受診の中で減薬の可能性も含めて検討します。「目標を達成したから終わり」ではなく、その先も含めて一緒に最適なバランスを探っていきましょう。
