最終更新:2025年10月

「健診でLDLが高いと言われたけれど、どうすれば?」――そんな相談が一番多いです。脂質異常症は、動脈硬化や血管病の原因となるものです。生活の工夫+薬の最小限の組み合わせで、将来の動脈硬化リスクはしっかり下げられます。

脂質異常症とは?

血液中の脂質(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)が長く偏った状態です。時間をかけて血管に“こぶ”のようなプラークができ、心筋梗塞や脳梗塞の土台になります。

まずは「今の位置」を知る(検査と評価)

  • 基本の採血:LDL-C/HDL-C/中性脂肪(TG)/non-HDL-C
  • 併せて血圧・血糖、喫煙歴、腎機能、家族歴(若い心筋梗塞や家族性高コレステロール血症)などを確認します。
  • これらを重ねて将来リスクをざっくり見積もり、目標値を決めます(リスクが高いほどLDLの目標は厳しめ)。JAS 2022の考え方です。

目標の目安(JAS 2022より)

  • 一次予防(心筋梗塞・脳梗塞の既往なし):リスクに応じてLDL-C <160 / <140 / <120 mg/dLあたりを目安に個別設定します。
  • 二次予防(既往あり、ACS後、FHなど)LDL-C <70 mg/dLを目安に厳格管理します。達成後は**non-HDL-C(=総コレステロール−HDL)も“LDL目標+30mg/dL未満”**をチェックして仕上げます

参考:中性脂肪は150 mg/dL未満(空腹時)HDLは40 mg/dL以上を目安に管理します。

生活で効くこと(最初の1か月)

  • 油の入れ替え:バター・ラード・加工肉→魚(青魚)・豆・オリーブ油へ“置き換えを検討”。
  • 主食は盛りを控える:丼もの・菓子パンの回数を減らす。
  • 運動:速歩など有酸素を週150分。通勤や買い物で“合計”できればOK。
  • 体重が落ちるとLDL/TGは動きやすい:まずは**−2〜3kg**を目標にします。
  • 禁煙・節酒:喫煙はHDLを下げます。

薬は“必要最小限を、段階的に”

  1. スタチンを土台とします。
  2. 足りない分をエゼチミブで上乗せして治療します。
  3. それでも未達/再発高リスクならPCSK9抗体(皮下注)やインクレシラン(半年ごと皮下注)も検討――“目標に届くまで”を逆算して組み立てます。インクレシランは日本でも承認済みで、長期アドヒアランスに利点があります(適応は要確認)。

薬は“ずっと同じ”ではなく、目標達成→維持量へ微調整してまいります。副作用(筋肉痛、肝機能)や費用なども含めて、その人に合うバランスを探します。

中性脂肪が高い人へ

  • まず飲み物・夜食・お酒の見直しが効きます。
  • 400mg/dLを超えるようなら早めに再検し、膵炎リスクを見ます。必要に応じて薬(EPA製剤など)を併用します。

どのくらいの期間で数字が改善するか?

生活改善だけでも4〜8週間でLDL/TGに変化が出ることが多いです。薬を使う場合は2〜4週間で効果判定→3か月で“仕上がり”を確認するイメージ。

当院の進め方

  1. 採血+心血管リスクの棚卸し
  2. “届く目標”を共有(LDLとnon-HDLの2本立て)
  3. 生活の置き換えプランを1〜2点だけ
  4. 薬は最小限から。目標未達なら早めに併用
  5. 4〜8週ごとに微調整(季節や体重で変わります)

よくある質問(FAQ)

  • Q. 目標に届いたら薬はやめられますか?
    A. 体質や既往次第だと思います。一次予防で生活が整えば減量・中止できることもあります。二次予防やFH継続が基本。一緒に“最小限”を探します。
  • Q. non-HDL-Cって何ですか?
    A. “悪玉の合計”のような指標。LDLが達成できたら+30mg/dLを目安にここも整えると再発予防に有利です。
  • Q. インクレシランはどのような患者さんに適していますか?
    A. スタチン+エゼチミブで未達、注射スケジュールの方が飲み忘れが少ない人に検討価値があります(適応・費用は要相談)。